五月の青い空

新年が明けたと思ったら、なんだかんだでもうすぐ五月である。雑誌の上では今編集中は六月号。
最近復活入会を希望する方がちらりほらりで、やはり一度短歌の味を覚えてしまうと、いつかは戻って来ることになるんだなあと思う。江波戸さんなどは、十代でやっていたのが、姿を消し、五十代になって戻って来た。十代で短歌を知った人は格別で、必ずいつかは戻って来る。
古い冬雷を見ていたら、やはりこの人の大連作「五月の青い空」80首が出てきた。〇六年七月号。十年前だ。
高校時代の小澤なつ樹さんである。
彼女のケイタイから、毎日のように複数の歌が届き、それをすべてそのまま掲載したことを思い出す。
一挙に4頁分の割付け。豪華だな。才能が眩しいくらいだった。今読んでも少しも色褪せない。
それをここに再現しよう。

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上はその誌面。
作品は、以下の通り。

   五月の青い空           小澤なつ樹

灰色の夜空に墨汁ぶちまけて描きたくなった無数の星を(4月26日)
辛いとき自分にそっと言ってみる今やらないでいつ頑張るの(4月28日)
四時間目朝の紅茶のカフェインが切れて瞼が重くなってく
気がつくと緑の垣根が紅色と白のつつじで飾られている
親戚に年を聞かれて高1と言いそうになる高2の春に
教室の窓から見える青空が澄んでいる日は授業が楽しい(5月1日)
先生の声が明るく響くのは澄みきった空の輝きのせい
体育の授業の後の更衣室制汗スプレーの匂いが混じる
体育のバスケの次は小テスト単語のつづりがぽろぽろこぼれる
大学のパンフレットを目の前にたくさん並べてため息をつく
寝る前の10分間だけ考える私は将来何になりたい?
大学はケーキ屋さんで悩むよりもっとたくさん悩んで決めよう
プリッツの余韻を口に残しつつ受ける授業はちょっと幸せ(5月2日)     
何もかも忘れ温泉につかりたい今の私のいちばんの夢    
爽やかな涼しい風を顔に受け露天の風呂につかっていたい
今はただ温泉の素を振り入れてここは箱根と自分を説得
二階への階段のぼり微笑むと悪戯小僧の瞳輝く(5月3日)
英文学、国文学と学びたい分野を絞れず進路に迷う
大好きな日本の事をたくさんの人に伝える仕事したいな
日曜日短歌と俳句を語り合う私と祖母はお茶飲み友達
お団子がいいかそれともおまんじゅう?   3時のおやつに悩む祖母、孫
母が昔作ったロングスカートにブーツを合わせお出かけ気分
ふわふわのロングスカートなびかせてブーツで走る待ち合わせ場所
スカートに白のニットのカーディガン裾と一緒に心もふわふわ
プリクラに落書きをした言葉通りクラス替わっても我らは友達
十代のにきびはチャームポイントよ鏡の前でにっこり笑う
いつもより少し背伸びをして買った色付きリップを机にしまう
おじいちゃん小さい頃からたくさんの大切なこと教えてくれたね(5月4日)
昔から仕事に向かう祖父の背に何だか少し憧れていた
手作りの抹茶クッキー祖父の手にそっと渡したバレンタインデー
余命あと一週間から十日だと私の祖父は宣告された
祖父の死を目前にして見たことのない親戚がたくさん集う
おじいちゃん本当はとても人気者たくさんの人がお見舞いに来る
「いつまでもお元気ですね」と言われてた祖父の手首がとても細くて
頬骨の形がはっきり分かるほどやせてしまったおじいちゃんの顔
成人式見て欲しかったなおじいちゃん着物で一緒に写真も撮れない
穏やかにただ眠っているような顔私の祖父は逝ってしまった
お棺には煙草もお酒も入れたからもう我慢なんてしなくていいよ
お通夜には240人来たんだよ最後の別れを告げるために
本当は今でも信じられないよだってあんなに元気な人が
黙祷を捧げて瞼に浮かぶのは優しく笑う祖父の横顔
あの日から祖父の時間は止まってて私の時間は動き続ける
三味線を祖父の遺影の前で弾く今日の音色は悲しい響き
連休に田舎に帰ったいとこから無事に着いたとメールが届く(5月4日② )
あんなにも乗りたがってた新幹線いとこは5分で飽きてしまった
友達とジュースを賭けたテストのため机に向かう時間が増える
ライバルがいれば何でも頑張れる希望を持って生きてゆきたい
高校でサッカー一筋燃えているいとこの姿ちょっと眩しい
おばあちゃんの煮物の味を私でもいつか作れるようになるかな
孫のため誕生ケーキを照れながらおじいちゃんは注文していた
線香の煙がきれいに上がってく天国までも届いているかな
線香を供える事が新しい私の習慣心が落ち着く
すぐそこで見守っている気がするよときどき心があったかくなる
線香の香りは精神安定剤祖父の頑張り思い出すから
小さくてもしっかり光るあの星は謙虚で頑固なおじいちゃんかな(5月5日)       
洗面所の鏡に向かいふと気付く最近の私疲れているな
休日は家族でフリーマーケット経済的で地球に優しい 
何もかも捨て去り月へ帰ってく時々かぐや姫になりたい(5月6日)
人間の心をなくしたかぐや姫美しさだけが幸せじゃない
この気持ち孟浩然が言い当てた春の眠りは心地よいもの
お昼寝は私の日課いくらでも眠っていられるゴールデンウィーク
幸せの匂いに満ちる祖母の家ほくほくかぼちゃの煮物が甘い(5月8日)
「時は金」それなら誰か売ってくれテスト勉強の時間が足りない(5月11日)
生物の時間はいつも退屈でこっそり数Ⅱのノートを開く
席替えで一番前の席になる景色が変わり気持ちも新鮮
お風呂でもトイレに行っても英単語、重要語句を唱え続ける(同1時間後)
帰宅してご飯を食べて入浴しそれから寝るまでずっと勉強
おとといは英語昨日は数学で今日は古文をみっちり勉強
大好きな曲を一回聞いてからさぁて今夜も頑張ろうかな
いつもより睡眠時間が短くて午後の授業を眠気が襲う
テスト後にたくさんご褒美用意して壁に貼り出し机に向かう
テスト前先生たちも大変で授業の合間の笑顔が消える
授業中テスト範囲が終わらぬと悲しげに言う若い先生
明日には誰かをすきになれるかな布団の中で静かに想う
連日の試験勉強目の下のクマは私の努力の証(あかし) (テスト終了日)
ポケットの中には甘いチョコレートテストの合間に一粒含む
今日はもう家に帰って寝ていよう最後の教科のテストが終わる
青空が広がるテストの最終日少し湿った空気を吸い込む
テストでの最終科目のチャイム鳴り「う~ん」と思いきり伸びをする
長かったテストが終わり目に入る五月の空の鮮やかな色

一箇月たらずの内に80首を作っている。
明るく頑張って入試勉強に取組む姿がフレッシュだ。

こういう人が、戻って来ると良いのだが。
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by t-ooyama | 2016-04-13 21:46 | Comments(0)

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