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歌集をたくさん読みました

新年号の選歌が終って、そのデジタルテキストが出来上がるのを待っている束の間の空白の日々。
昨日から取りかかって、寄贈を受けた歌集類新刊の封を切って、中身を確認、順に礼状を書いて行った。
昨日7冊、今日も7冊、計14冊の中身確認作業は結構しんどい。他誌で小誌を紹介して下さるとかの場合は、即時に御礼を書くのだが、新刊歌集は少し溜めておいて暇を見て一気にやる。極近に届けられたものは後に回し、到着順に取りかかる。
外塚喬氏の『散録』は氏の個性が良く出ていて楽しめる。

ためいきをつけば憂ひもこぼれ出て沼のおもてにいちめんの雨

唐梨子は苦労のあとの見え隠れするやうな木なり樹皮を落とせり

百円ショップに来てきまぐれに求めたる三色ボールペンをはなせず

ネクタイを取りかへ引つかへするうちに最後の一本が首にまきつく

永井正子氏の『風の渚』はきっちりと見開き頁が開いて非常に読みやすい製本で、読みながら苛立つことが無かった。

センサーの感知素早く門前の闇に家族の素顔が浮かぶ

夕光に影引く石の一つづつ渚に満つる潮に濡れゆく

平林静代氏の『点の記』は生真面目で誠実に生きる日常がうたわれていた。

眠るにも力が要るなり深く吸ひ大きく吐きて息整ふる

落葉の上をとんとん弾む寒雀楽しいことでもあるのか とんとん

他にも散文集として、大島史洋氏の『短歌こぼれ話』。千々和久幸氏の『酔風船』など重くない感じの取り付きやすい本があった。
今回の十余冊の歌集には、どう頑張っても引っこ抜ける佳品がない、というものが見当たらなかったのは嬉しい。みなそれぞれの個性を思わせる作品が見つかった。そういう意味ではレベルの高い方々の歌集であった。
中でもインパクと十分は鶴田伊津氏の『夜のボート』である。第二歌集だとある。
変哲ない日常を構えずにうたっているのだが、読後ジワッと広がって来る何とも言えない余韻がある。

紅羊歯のように震える心ありアジアを亜細亜と変換すれば

子は脅ゆ風が落葉を集めるに蟻がわらわら歩いているに

肉体の厚みを持たず揺れているパジャマの裾に蟬はすがれり

子はふたつわたしはよっつ右脛に蚊の残したる晩夏の地図

Bを使えば4Bめくことば生まれ常より筆圧強し

4Bの太目の芯で書いていると、それなりの思いが生れ、ことばが生れ、ああ筆圧がこんなに力強いことだ。
という歌だが、面白いなあって思った。
文字は人を表すとかってよく言う。事実年齢や、その時の心情の持ち方でかく文字が変わって来る。
こころが穏やかだとまるっこい文字となり、のびのび大きめになったりもする。
逆に神経ぴりぴりで尖った時は4Bでは文字を書けない。芯の硬いH系だろう。
最近小生は太目の鉛筆で丸くて柔らかく大きい字を書いて暮したいと思うことが多い。
今回の賜った歌集への礼状には、思いっきり柔らかな大きな字で大山敏夫って書いた。

一先ず、歌集類を見ないで済む日が続く。
今週末に十二月号が出来する。即発送となる。
そしてその次は、新年号に取りかかることになる。
予定では十二月四日が最後の校正日である。
束の間の空白が済むと、目まぐるしい時間との闘いが始まるのだ。


by t-ooyama | 2017-11-22 23:03 | Comments(0)

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