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善知鳥坂

再び「うとう坂」について。川越では「烏頭坂」だが、通常では「善知鳥坂」と書くところが多い。これが古くから伝わる謡曲の「善知鳥」から来ていることは前にも述べた。

その謡曲の元になった話が塩尻市の「善知鳥峠」に伝わっているそうだ。

 漁師が浜辺で珍しい鳥の雛を捕まえ、自分の子供を連れて都へそれを売りに行こうとする。すると親鳥が追いかけて来て、「ウトウウトウ」と泣き続ける。その声に応える様に雛は「ヤスタカ」と鳴く。やがてあたりは大雪となり、吹雪の中で峠にさしかかった漁師は倒れ死んでしまうが、漁師は自分の子をかばう様に覆っていた。そしてすぐ側に同じ様に雛鳥をかばう様に覆って死んだ親鳥の姿があった。という話。この鳥が「ウトウ」という海鳥である。親鳥がウトウと鳴くと雛がヤスタカと応えるというところは、どうも現実離れしいているが、のちに謡曲や、更に「善知鳥安方忠義伝」という様な話となって広く伝わってゆくのである。前回の「廻国雑記」の時点では、まだ「善知鳥安方忠義伝」の方は現れていない。

 能の「善知鳥」になると、その話の場所がむつ湾沿岸の外ケ浜に結び付けられて、この地には「善知鳥神社」が今もある。地番は青森市安方である。今でこそ現実離れの感があるが、能の四番演目で恐ろしい話なのであった。

 では、ウトウって実際はどんなふうに鳴くのか、ということは気になる。鳴き声を聞き写して表現すると、聞く側の主観にも影響受けて「ウトウ・ヤスカタ」と聞こえるのかも知れないが、通常のレベルだと、それは野鳥の「ききなし」というものがあって、辞典さえ存在するのだ。その辞典によると、ウトウは、

 「ガオー、グオーなど」

とある。これだけだと、まさに泣き叫んで、怒り叫んでいる声にも聞こえそうだ。雛を奪われた親鳥が取り戻すべくガオー、グオーって泣き続ける、漁師はその親鳥の鳴き滴らす涙と血の雨に濡れるのである。恐ろしい。

 浄瑠璃や謡曲ではこう表現する。

・歌ふ声にも血の涙、子はヤスカタのさへづりや

・みちのくの外が浜なる呼子鳥鳴くなる声はうとうやすかた



by t-ooyama | 2020-10-04 13:17 | Comments(0)

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