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訃報です。 ご冥福をお祈りします。

悲しい事ですが、今週も訃報です。
会員野村昭一郎氏は、この十二月一日、誤嚥性肺炎でお亡くなりになりました。
奥様からのお知らせの葉書には、以前から少しずつ機能が弱っていて十一月二十一日に入院されて、あまり苦しむこともなく静かに生涯を終えられたそうであります。
「主人は短歌が何よりの生き甲斐で、入院中も絶えずメモをしていたそうです。」
とありました。
そう言えば、このHPの「ネット歌会」にもメンバーとなって参加されていらっしゃいました。
コロナ禍によって、二年まるまる月例歌会を開催しておらず、例会ではお会いすることが多かったのですが、寂しい日々を重ねて参りました。そんな中での訃報にて、まことに残念でなりません。
野村氏は、入会後六、七年かなと思いますが、当初からツボを心得た歌の達人で、それも小誌の目指す方向にみごとにマッチして、早足に作品一欄まで上って参りました。誰もが認める実力でありました。

ここにお知らせして、野村氏の本年一年分の全作品を以下に貼り付けて、偲びたいと存じます。

心よりご冥福をお祈り致します。


野村昭一郎

朝刊がゴトリと入り一日の始まる音が配られてゆく

朝空に光る白雲幾幾と望みあるごと並みて移れる

日を重ね復習ふ太鼓の掛声も連打の音も力増しゆく

微妙なる描線の味あたたかき友の文字絵の賀状もう来ず

二日から売り始めたるスーパーの残り数の子半値で並ぶ

飽きの来ぬ昔の味のビスケット二人の茶請け四枚で足る

お互ひに気をつけやうの空念仏しまつたはずのあれ見当たらず

医療用語加はり増えるカタカナ語調べはすれどたちまち忘る

行きたくも行けぬ人等もをるものをGoToイート・GoToトラベル

月一度休まず届くカタログ誌白人モデルの老いてダンディー

ドリブルの独り練習折り返す少年は息大きく吐きて                  

駆けまはる園児の群に背を向けてひとりせつせと穴掘る子あり

颯爽と黒いタイツのハイヒール寒くはないか形よき脚

息子等が本になしたるその母の歌のいくつか殊に身に沁む

通帳の残じりじりと減るなかを払ひ戻さる高額医療費

OSの古びて読めぬサイト増え口惜しけれどもまだ買ひ替へず

十年を使ひて終ぞ故障なく馴れたるソフトに不足覚えず

高架路を翳らす雲に風の出て洩れ射す日ざし幾筋ひかる

齢故と医師の奨めぬ再手術されどもここは五分五分選ぶ

樹々の間に光あつめてきらめける町川見ゆる病室の窓

セクシーになつてますよと看護師ははだけた我の寝間着を正す

四ベッドカーテン仕切る空間に修羅抱へたる寝言譫言

繃帯の数多干さるるその影の風に踊れる病棟の壁

説きつづく看護師の声とどかずに訴へやめぬ耳遠きひと

食ひ過ぎを恐れて残す患者食豆腐の味のよくしみてをり

賭に似る手術幸ひ吉と出て脆き残生少し息つく

寝たきりを目前にして退院すこの足腰を如何に戻さむ

突く杖と息の合ひきて陽光に芽吹ける樹々をふたたび仰ぐ

ぐんぐんと歩きゐし夢また見たり未練がましき脳の記憶は

古びたる干し物いくつ翻る窓ひとつありビルの裏側

笑ふ間も介護認定調査員チエックのペンの休まず動く

杖なしで部屋の隅まで行き戻るわが足どりも調査項目

副作用難ずる我に医師答ふ薬止めよう咳では死なぬ

老の身に伸びるものあり痛む腰しばし堪へて足の爪切る

十分にソーシャルディスタンス確保して襖越しなる妻とやりとり

ドア開けず判子も要らず写メールの届き廊下の「置き配」取り込む

雨あがる横断歩道の白線の屈背のわれに眩しき五月

来し方の砂町線の軌道あと囀つつみ木木生ひ繁る

一面に草の蔓延る線路端照りては降りて初夏の空

小やみなく雨を降らせて灰色の五月の雲の移りは速し

力尽き崩るる雲は匍匐してまた立ち上がる時を窺ふ

生ひ立ちから話し始める大臣のどこかあざとき就任の弁

坐して待つ患者を隔つ × 印ソファに椅子に太太とあり

満月のオレンジ色に上りくる夏まだ浅き江東の空

ああでなしかうでもなしと切りもなく夜の湯槽に歌まとまらず

打ち勝つといと簡単に言へるのか甘き相手に非ざるものを

男とふ理由で我れの頼らるる憚り多しジェンダーの世に

骨折の妻を乗せんと三十年前買ひし自転車ゴミとして捨つ

「聞こえます」印のマークあれば欲し大きな声に感謝はすれど

録画観る真昼間からと言ふなかれ我が娯しみの鬼平・小兵衛

社交ダンス教へくれたる友あれど男ばかりで長く続かず

我が脚と思へぬ脚を宥めつつ日課としたる階段歩く

窓口に替はる医療費精算機患者番号点るのを待つ

退院の荷をめいめいに下げ持ちて付き添ふ者も杖を曳きつつ

雨あがりまだ濡れてゐる青空を余さず占めて太き虹立つ

運転の白シャツ袖をたくしあげ赤き車体のディーゼル車過ぐ

瑞瑞と白木蓮は若葉どき空の明かりを透かせ広がる

虎杖に絡み咲き継ぐ小昼顔貨物軌道に沿ひて広がる

古びたる庁舎5階の突当り職員食堂ラウンジオアシス

ラウンジも悪くなけれど食堂といふ名の似合ふ食券売機

二つある定食メニューハンバーグトマトソースの今日は売り切れ

慎重にB定食のトレー持ち隅の落ち着く席へと向かふ

半分にして貰ひたる定食の飯をやつぱり一口残す

波がしら寄せくるさまに連なりて雲脚はやき梅雨の朝空

高々と日に透く青葉騒めきてユリの並木に風よく渡る

咲き初むる香を逃さずに嗅ぎたしとマスクを外す梔子の垣

いい鼾かいてましたと妻は言ふ眠れぬままに目つむりゐたるに

物買ひに店に入るとき使ひたる「お呉れ」「下さいな」今は聞かれず

水飲みて噎せて入院せしといふ若大将も齢には勝てず

皆同じ造りの部屋を住処とし長く暮らせど付き合ひはなし

在宅を確め終へて宅配はすぐに台車を押して駆け出す

梅雨明けの近きを告ぐる雷鳴の遠く響けり二たび三たび

立ち漕ぎに坂上り来る若き等の自転車我に風をぶつけて

せはしなく鳥鳴き交はす木の繁み雨をふくめる風が揺さぶる

とりどりの柄のマスクに馴染みきて衰へ知らず疫禍の日日は

筋トレに励みし日日は何時のことブルワーカーをゴミとして出す

気持とは違ふ言葉が口を出る我が偏屈のおふくろ譲り

長命の親の達者を知らせ来る長男の文字親によく似る

眼を捉ふ壁のゴッホの自画像の何を見据ゑるむさき髭面

誰が吹くオカリナの音か懐しく棟の廊下に点る梅雨の灯

椅子を立つたびによろめき進む列ワクチン接種も一仕事にて

遙かなる雷鳴ありて暑き日の空のたちまち暗みゆく午後

やり過ぎて悔ゆるは常のことにして後はすぐさま忘れて懲りず

衰へを忘れふためくこと増えぬ噎せ返るのもその一つにて

恥づるなき老と思へど願はくば人目につかず暮らしたきもの

ちりぢりに鳴き継ぐ蝉の声のせて風はしづかに夜を吹きくる

内村の敗退告ぐる大見出し「挑戦に幕」吐息して見つ

アメリカンドリーム爲せし少年のボード遊びの金メダル受く

開催は反対なれど感染は止め処なけれど競技に観入る

崩れてはまた盛りあがり流れゆく夏の終りの夕雲の群

ひたすらな杖の歩みとなりてより人目気にすることも覚えず

齢とりて夜中の咳は辛いよと聞きたる言葉思ひ出すいま

Tシャツを着こなし立ちて筆揮ふ野見山暁治なんと百歳

新機軸打ち出す冬雷新年鑑熱き心を感じつつ読む

中吊りのあの極太の大見出しもう見られずと思へば淋し

中吊りのぎつしり並ぶ見出し文字読ませる工夫凝らせしコピー

走りゆく車内を歩き中吊りを替へゆく手際あざやかなりき

色覚の異常打ち明け師に問へば心配無用と道を示さる

中年の才なき不器用者われを見捨てず育て給ひし我が師

視力落ち仲間引退続くなか師はパソコンを学べと言はれき

烏口絵の具もペンもみな捨ててマウスとキーに向き合ひたりき

われ痩せて密着悪き聴診器時間を掛けて医師は音聴く

ドクターの病名予想やや外れ隔離の難は幸ひ免る

常なれば入院なれどこの身体寝たきり恐れ通院となる

患者との対話惜しまぬ医師にして触診をなす手間を厭はず

丁寧な診察何時も長引きて時間遅れをドクターの詫ぶ


by t-ooyama | 2021-12-21 17:00 | Comments(0)

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